分子と共有結合 

【不対電子と共有結合】

電子式  

最外殻電子を「・」で元素記号のまわり(上下左右)に添付した式を電子式という。電子は2個で対をつくり,対になったものを電子対という。また1個で存在する電子を不対電子という。不対電子は他の原子との結合に使われ,不対電子の数により,その元素の性質が決まる。この数を〔 原子価 〕という。

 
 例)H原子とO原子の電子式  例)NK2L5)の原子価
   

共有結合と分子 

非金属の原子どうしは,不対電子を出し合って共有電子対をつくることにより結合し,互いに安定な電子配置となる。この結合を共有結合といい,共有結合によってできた粒子を分子という。このとき電子式の1対の共有電対を1本の価標で示した化学式が構造式である。

例)H2O

 

例題 塩化水素HCl,二酸化炭素CO2,窒素N2を電子式と構造式で表せ。

 
 

【分子の立体構造】

 構造式は平面で示しているので,分子の立体的な形を表していない。原子価(原子の手の数)は多くて4なので,原子は正四面体の中心から頂点に向かって手をのばしていると考えられる。その手に他の原子が結合するので,単結合のみからなる分子には次のような立体構造が存在する。 

 
二重結合や三重結合を含む分子は,結合の部分が直線型や平面になる。    【発展】混成軌道と結合参照)
 

【配位結合】

 通常の共有結合は,2つの原子が互いに不対電子を出し,共有してできる結合である。これに対し,2つの原子間で,一方の原子がもつ非共有電子対を共有することによってできる共有結合を〔 配位結合 〕という

1)オキソニウムイオンH3OとアンモニウムイオンNH4

 
 オキソニウムイオンH3O
H2O
の非共有電子対にHが共有結合した形
アンモニウムイオンNH4 
NH3の非共有電子対にHが共有結合した形 
   
 

2)錯イオン

 NH3などの非共有電子対をもつ分子は,金属のイオンに配位結合することができる。金属のイオンは陽イオン(原子が電子を放出してできたイオン)なので,NH3などが持つ非共有電子対を共有することができる。このときできるイオンを〔 錯イオン 〕といい,NH3などの分子を〔 配位子 〕という。

 

〈参考〉【発展】金属の錯イオン参照)

配位子には,分子や陰イオンがあり,つぎのようなものがある。

H2O(アクア),NH3(アンミン),OH(ヒドロキシド),CN(シアニド),Cl(クロリド)

配位数:金属イオンに配位する配位子の数を配位数といい,金属イオンの種類にのよりほぼ決まっている。

 
 

錯イオンの電荷数:金属イオンと配位子の電荷の和になる。

錯イオンの形:錯イオンの形は,その配位数によって次のような形をとる。

直線型(2配位),正方形(4配位),正四面体(4配位),正八面体(6配位)

 
 

錯イオンの名称

(配位数),(配位子名),(金属名),(金属イオンの価数)の順で呼び,最後に全体が陽イオンのときは「イオン」,全体が陰イオンのときは「酸イオン」をつける。配位数はモノ(1),ジ(2),トリ(3),テトラ(4),ペンタ(5),ヘキサ(6)・・・で示す。

 
 

【電気陰性度と極性】

電気陰性度

 共有結合している2種類の原子の間に存在する共有電子対は,どちらか一方の原子にかたよって存在している場合が多い。このように,共有電子対がかたよって存在するのは,共有電子対を引き付ける強さが原子によって異なるからである。この共有電子対を引き付ける強さを数値にしたものが〔 電気陰性度 〕である。2種類の原子の間に存在する共有電子対は,電気陰性度の大きな原子の方にかたよって存在する。一般に,電気陰性度は,周期表で〔 希ガス 〕を除いて〔 右上 〕に位置するものほど〔 大き 〕くなる傾向がある。   

例題 次の文章中の下線部分は正しいか,誤りか答えよ。

  @ 周期表の17族において,周期の番号が大きいほど,元素の電気陰性度は大きい

    A 周期表の第2周期において,18族を除いて族の番号が大きいほど,元素の電気陰性度は大きい

  B 電気陰性度の大きい元素ほど,陽イオンになりやすい

  C 2つの原子の電気陰性度の差が大きいほど,結合の極性は大きい

  D 2つの原子の電気陰性度の差が大きいほど,共有結合をつくりやすい

 

  @ 誤  A 正  B 誤  C 正  D 誤 

 

 
結合の極性

 
共有結合している原子間では,電気陰性度の大きな原子の方が共有電子対を引き付けている。電子は負の粒子なので,共有電子対を引き付けている原子の方が,いくらか負に電荷を帯びている。このように,共有結合している原子間に電荷のかたよりがある場合,結合に極性があるという。
 
 

例)HCl(右上)

電気陰性度はHClなので,HClの間の共有電子対は,〔 Cl 〕の方にかたよる。 

 ⇒ 電子は負の粒子なのでHClでは,Clがやや〔 〕,Hがやや〔 〕になる。 
 

分子の極性

 分子全体で見たとき,結合の極性が打消しあって(結合の極性のかたよりの方向を「→」で示し,ベクトル的に考える),分子全体で極性がなくなった分子を〔 無極性分子 〕,極性が残る分子を〔 極性分子 〕という。 

例)無極性分子…CH4CO2H2   極性分子…HClH2ONH3
   

例題 次の@〜Dの中で,極性分子と無極性分子の組み合わせはどれか。

  @ H2Cl2 A HFHCl B H2SH2O C CO2CCl4 D NH3CH4

 

   D

 

【分子間にはたらく力(分子間力)】

ファンデルワールス力

分子間にはたらく引力で,イオン結合や共有結合よりも弱い結合である。ファンデルワールス力の大きさは〔 分子量 〕とともに大きくなる。そのため,融点・沸点は分子量が大きいほど〔  〕くなる。また,同じような分子量でも,極性分子は電荷の偏りにより,〔 静電気力 〕がややはたらくので,無極性分子よりも融点・沸点が高くなる。

例)F2(無極性,分子量38,沸点−188℃)とHCl(極性,分子量36.5,沸点−85℃)

 
 

水素結合

右上のグラフより,H2OHFNH3は分子量の割に沸点が著しく高い。これは,H2OHFNH3分子中のOHFHNHは特に極性が大きく,次のような水素結合が生じるためである。 



例題 右上の図は1417族の典型元素について,その分子量にともなう水素化合物の沸点変化を示す。

(1) 14族元素の水素化物において,14族元素の分子量が大きくなるにつれて沸点が上昇する理由を書け。

(2) 右上図に示す同族の水素化合物は共通の立体構造をとる。1417族の水素化合物について,それぞれ,立体構造として
 最も適当なものを(a)〜(e)のうちから1つ選べ。

   (a)直線形 (b)折れ線形 (c)正四面体形 (d)三角錐形 (e)正方形

(3)1517族の水素化合物において,NH3H2OHFが(1)の規則に従わず,同族内の他の水素化合物に比べて沸点が異常
 に高くなる理由を書け。



(1) 14(CSn)の水素化合物は,無極性分子なので,分子間にファンデルワールスのみがはたらき,ファンデルワールス力
 は分子量とともに大きくなるから。

(2) 14族(CSn (c)  15族(NSb)(d)  16族(OTe)(b)  17族(FI)(a

(3) 分子間に水素結合を形成するから。

 

分子結晶

多数の分子が規則正しく配列してできた結晶を分子結晶という。分子間にはたらく引力(ファンデルワールス力,水素結合)はイオン結合や共有結合よりも弱い結合なので,イオン結晶や共有結晶に比べ融点・沸点が低く,特に二酸化炭素,ヨウ素,ナフタレンなどは分子間力が弱いので,〔 昇華 〕しやすい。

 

氷(水の結晶)

 氷は水分子が分子間力により集まってできた結晶である。水分子H2Oは,折れ線形の立体構造をもつため,分子全体で電子のかたよりがみられる極性分子である。また,水分子にはHOの結合が存在するため,水素結合が生じる。液体の水が固体の氷に変化するとき,水分子1個あたり4個の水分子と水素結合によって引き合う氷の結晶はすき間の多い正四面体の構造をとっている。そのため,次のような通常の分子ではみられない特異的な性質をもっている。

通常の物質の密度(体積あたりの質量g/cm3)は液体よりも固体の方が大きいが,水は液体の方が固体よりも大きい(通常の物質では,固体を液体に入れると固体は沈むが,氷は水に浮く)水が氷になると,体積が1割増え,密度が約1割減少する。密度は4℃のとき最大で1.00g/cm3となる。